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お役立ち情報

2025-01-10

パソコンの保守料を1年分支払った場合、全額費用処理できますか?

【質問】

先日、年払いの契約に従い、1年分をまとめて支払ったクラウド利用料を、支払った事業年度で全額費用(損金)処理できると聞きました。クラウドにアクセスするのに利用しているパソコンの保守料も年払い契約か月払い契約かを選択できるので、年払い契約を選択して1年分をまとめて支払えば、支払った事業年度で費用(損金)処理できますか?

 

【回答】

クラウド利用料は全額費用(損金)処理できますが、パソコンの保守料は難しいと考えます。

会計では、一定の契約に基づき継続的に役務(サービス)の提供を受けるために支払った費用は、その役務(サービス)の提供を受けたときに費用処理するのが原則です。これに従えば、一度に支払った時点で前払費用に計上し、毎月費用に振り替える処理を行うことになります。

ご質問の全額費用処理する会計処理は、原則的な月割り計上する会計処理と異なる処理方法と言えます。

 

では、なぜクラウド利用料は法人税で費用(損金)処理が認められて、パソコンの保守料は難しいのか、検討してみましょう。

まず、会計には「費用収益対応の原則」、「継続性の原則」、「重要性の原則」という考え方があります。「費用収益対応の原則」とは、費用及び収益は、各収益項目とそれに関連する費用項目とを対応させなければならないというものです。

「継続性の原則」とは、会計処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならないというもので、「費用収益対応の原則」、と合わせて会計の7つの一般原則を構成しています。

「重要性の原則」とは、重要性の乏しい軽微なものは、本来の厳密な会計処理によらず簡便な会計処理をしてもよい、というもので会計の一般原則の注釈として位置づけられています。

 

法人税は、会計の考え方をベースに、法人税の課税目的に資するように、会計数値に一定の調整を加えて課税所得を計算する仕組みとなっており、そのベースには会計の考え方が反映されています。

このため会計の「費用収益対応の原則」、「継続性の原則」、「重要性の原則」の思想が反映され、「短期前払費用の特例」と呼ばれる税務のルール(法基通2-2-14)が作られています。

 

 

【法基通2-2-14】
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。

 

 

「短期前払費用の特例」で押さえるべき重要なポイントは次の通りです。

一定の契約に従って継続的に役務提供を受けること。すなわち、年払いの契約があり、等質等量の役務(サービス)提供がその契約期間中継続的に提供されることが必要です。

 

支払った日から1年以内に役務の提供を受けること。1年超の役務の提供があれば、1年以内の部分も含めた、その全体がこの要件から外れます。

 

支払った金額を毎期継続して損金処理していること。会計の「継続性の原則」の考え方が反映されており、みだりに(理由なく)変更することは認められません。

 

「重要性の原則」の範囲内であること。この規定は原則処理の例外を認めたものなので、会計原則が求める、金額的重要性・質的重要性を考慮したうえでの適用が前提となっています。また「費用収益対応の原則」の観点より、収益と対応関係にある費用については特例を適用できないとされています。

 

 

次に、質問内容にルールを照らして検討してみましょう。

年払い契約を締結する点は問題ありませんが、継続的な役務提供の中身が等質等量のサービスに該当するかどうかが重要となります。クラウド利用料は等質等量のサービスに該当すると考えられますが、パソコンの保守料はどうでしょうか?保守契約には、メンテナンス・部品や本体交換などの幅広いサービスが含まれており、この点で等質等量のサービスというのは難しいと考えられます。

 

1年内の費用を期中に支払っていることから短期の要件に該当します。仮に、年払いの賃貸契約等で、3月に4月から翌3月分を支払うケースでは、当期中の費用が一切含まれないことから、この特例の適用対象とならず、単なる前払金となるので注意しましょう。

 

クラウド利用を開始した時点で一時費用処理を採用しており、今後も継続して同内容に同一の処理を適用することで継続性は保たれます。

 

ただし金額的に重要性の高いクラウド利用を新規に開始した場合、会社の内規等でその金額の重要性基準を定めて、その重要性に応じて、原則処理か特例処理かを選択することは、継続性に反することにはならず、適切な処理だと思います。

 

 

※2025年1月10日作成

※作成日現在の法令にもとづき作成しています。